​交通事故による休業損害|橋本あれふ法律事務所

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交通事故による休業損害について

休業損害とは?

 休業損害とは,事故の被害者が,事故による傷病の治療のために仕事を休むことを余儀なくされ,その結果,現実に収入が減少した場合に発生する損害のことをいいます。

 例えば,事故による入通院のために仕事を休まざるを得ず,それによって収入が20万円減った場合には,その20万円が休業損害となります。

 休業損害の計算は,次のように行います。

 休業損害 = 1日当たりの基礎収入額 × 休業期間

休業損害

給与所得者の休業損害

基礎収入額の計算

 給与所得者の場合,勤務する会社から休業損害証明書を出してもらい,その金額を基に計算します。具体的には,被害者が休業前3か月間に受け取った給与の合計額(税金を控除したもの)を,3か月間の平均日数である90日で割ったものが1日当たりの基礎収入額です。

 休業損害証明書に記載された3か月間に受け取った給与の合計額が妥当なものであるかどうかは,前年度の源泉徴収票によって確認します。
 源泉徴収票は12か月分の給与に加えて賞与額が合算されているため,「休業損害証明書記載の給与額÷3<源泉徴収票の支払額÷12」となっていれば,休業損害証明書記載の額が妥当なものであると推認されます。

 源泉徴収がされていない給与所得者の場合は,賃金センサスにより算定されます。

※ 東京地判平成10年11月4日
 源泉徴収を受けておらず,確定申告もしていない居酒屋チェーンの店長(男・27歳)につき,賃金センサス男性高卒25歳~29歳平均を基礎として算定した。

休業期間の計算

 入院期間については,原則としてその全部が休業期間として認められます。

 通院期間については,事故によって稼働できなくなった時点から,原則として症状固定日までの期間です。

 ただし,症状固定日以前に稼働が可能となった場合には,稼働可能日までの期間も考慮されます。すなわち,「事故から症状固定日までの300日中,200日については全日分を,残りの100日についてはその50%を休業損害として認める。」という判例のように,稼働可能日以降についても割合的な休業損害が認められる場合があります。

※ 東京地判平成13年5月30日
 事故日から勤務する予定だった会社の初任給を基礎として,事故時から約8か月間100%,その後症状固定時まで約1年5か月間35%を認めた。

※※ 症状固定とは
 症状固定とは,治療をこれ以上継続しても症状の改善が期待できない状態に至ったことをいい,治療を担当した医師が行います。

 このように,休業損害の算定のためには,いつから稼働可能であったかが重要になってきます。
 そのため,治療に当たった医師から,「通院期間中は療養のため労働することができなかった」旨の証明書を作成してもらうこと等が有用です。

※ 東京地判平成21年11月4日
 障害等級12級の被害者(症状固定時37歳)について,治療に当たった医師が,労災保険に対し,通院期間中は療養のため労働することができなかった旨の証明書を作成していることから,症状固定日まで1802日間の休業損害を認めた。

賞与等の減額分

 事故で会社を休んだことによって賞与が減額または不支給となった場合,会社が作成した賞与減額等証明書によって,賞与減額または不支給分に相当する損害が認められます。

症状固定前に退職した場合

 事故による受傷が原因となって,今まで勤めていた会社を解雇され,または会社を自主退職した場合には,次の1・2のうち,いずれか短期の期間につき損害算定するとされています。

  1. 現実に就職先を得られるまでの期間
  2. 受傷状況や年齢等に照らして,転職先を得るまでに相当と認められる期間

 また,事故と無関係に自主退職した場合にも,休業損害が認められる可能性はあります。

※ 東京地判平成10年10月14日
 腰椎捻挫,頭部打撲,頚椎捻挫の傷害を負った会社員が,事故後に事故と相当因果関係が認められない自主退職をした場合の退職後の休業損害について,事故前の収入によらず,賃金センサス男性学歴計30歳~34歳平均を基礎にして認めた。

家事従事者(主婦等)の休業損害

家事従事者とは?

 家事従事者とは,男女の別,年齢を問うことなく,現に他人のために家事に従事する者をいいます。代表的には主婦ですが,男性であってもこれに該当しえます。

 家事従事者は目に見える収入がありませんが,主に賃金センサスに基づいて計算した休業損害が認められます

 最高裁の判例でも,「家事労働に属する多くの労働は,労働社会において金銭的に評価されうるものであり,これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから,妻は,自ら家事労働に従事することにより,財産上の利益を上げている」として,家事従事者の休業損害を認める立場に立っています。

 ただし,注意しなければならないのは,自分以外の第三者に対して家事労働を提供していることが必要だということです。つまり,自分のために家事をしている一人暮らしの方については,家事従事者としての休業損害は認められません。

基礎収入額の計算

 家事従事者が生み出す財産上の利益は,給与所得者のように目に見える額ではありません。そのため,1日当たりの基礎収入額がいくらなのかが問題となります。

 この点について,最高裁の判例は,主婦の基礎収入額として,女子労働者の平均賃金(産業計・企業規模計・学歴系の全年齢平均賃金または年齢別の平均賃金)を採用しています。

 兼業主婦の場合は,上記賃金センサスの金額と自らの所得を比較して,いずれか多いほうの金額に基づいて計算します。

休業期間の計算

 他の場合と同じく,被害者が現実に家事労働に従事できなかった期間が休業期間となります。原則として症状固定日までの期間ですが,症状固定日前であっても家事に従事することが可能となった日からは,割合的に認定されるケース(例えば「症状固定日までの300日のうち,家事従事不能であった200日については全日数分とし,家事従事可能となった残りの100日については50%とする。」等)が多いです。

 家事に従事することが可能になったかどうかは,受傷内容,受傷部位,治療経過,回復の度合い,被害者の年齢,家族構成などが総合的に考慮されます。

学生の休業損害

アルバイト代

 学業と両立する範囲のアルバイト代は,休業損害として認められます。この場合,給与所得者と同様に,原則として事故前3か月分のアルバイト代を同期間の日数で割った額を1日当たりの基礎収入額とし,症状固定日または就労可能日までの期間についての休業損害が認められます。

就職内定者

 就職内定をもらっていた大学生が,事故のために大学を休学せざるを得ず,結果的に卒業が1年遅れたような場合には,その1年分の休業損害が認められる可能性があります。この場合,基礎収入額は,就職が内定していた会社の初任給を基本とするのが原則ですが,大卒25歳~29歳の賃金センサスを用いる判例もあります。

失業者の休業損害

 失業者には,原則として休業損害は発生しません。

 ただし,例えば事故にあったのが失業後間もない時期であり就職活動を現に行っていた等,仮に事故にあっていなかったとしたら就職できていた蓋然性が高い場合は,休業損害が認められる可能性があります。

 この場合,就職ができたと認められる時期以後について,就労可能時期までの休業損害が肯定されます。