​遺産に安易に手を出さないで!法定単純承認の危険と例外|橋本あれふ法律事務所

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遺産に安易に手を出さないで!法定単純承認の危険と例外

相続は、亡くなった方(被相続人)が持っていた財産だけでなく、借金などの負債も引き継ぐのが原則です。しかし、負債が財産を上回る場合など、相続したくないケースもあるでしょう。そのような場合に「相続放棄」や「限定承認」という手続きがありますが、これらをせずに特定の行為をしてしまったり、一定期間が経過してしまったりすると、「法定単純承認」が成立し、被相続人のすべての権利義務(負債を含む)を無条件に引き継ぐことになります。つまり、相続人が被相続人の債務について無限責任を負うこととなるのです。

法定単純承認が成立すると、原則として後から相続放棄や限定承認をすることはできなくなりますので、その成立要件と注意点をしっかり理解しておくことが極めて重要です。

法定単純承認が成立する主なケース

法定単純承認は、相続人の意思表示とは無関係に、以下のいずれかの事実があった場合に成立するとみなされます。

1. 熟慮期間(3か月)の経過

  • 相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に、相続放棄または限定承認の申述を家庭裁判所に行わなかった場合、法定単純承認が成立します。

  • この「知った時」とは、単に被相続人の死亡を知った時だけでなく、相続財産の全部または一部(特に負債)の存在を認識した時、または通常これを認識しうるべき時から起算されるとされています。例えば、債権者からの請求書によって初めて多額の債務を知った場合、その時点から3か月が開始すると判断されることがあります。

  • 相続人が複数いる場合でも、この3か月の期間は各相続人ごとに進行します。

  • 万が一、3か月以内に相続財産の調査が完了しない場合は、家庭裁判所に対し熟慮期間の伸長を申し立てることが認められています。

2. 相続財産の一部でも処分する行為

  • 相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合、相続を承認したものとみなされます(民法921条1号)。これにより、原則として相続放棄や限定承認ができなくなります。

  • 具体例:

    • 被相続人の預貯金を引き出して使用する。

    • 被相続人の不動産を売却する。

    • 被相続人の遺品を形見分けとして受け取る、または売却する。

    • 遺産分割協議を行う:遺産分割協議は、相続財産の処分行為に該当するため、協議が成立した後は原則として相続放棄は許されません。

  • 注意点:

    • 錯誤による遺産分割協議の例外: 遺産分割協議後に多額の債務が判明するなど、もし債務の存在を知っていたら協議を行わず相続放棄していたであろうと認められる場合には、その遺産分割協議が「錯誤」により取り消され、結果として法定単純承認の効果が発生しないと判断される余地があります。この場合、申述書で錯誤の具体的な事由と熟慮期間の起算点(債務を知った日など)を主張・立証する必要があります。

    • 相続財産に含まれないもの: 一身専属権(恩給、遺族扶助料など)や、相続人を受取人とする保険金請求権は相続財産には含まれず、これらを受け取っても法定単純承認にはなりません。

法定単純承認の効果

法定単純承認が成立した場合、相続人は被相続人のすべての財産と負債を承継し、負債が財産を上回っていたとしても、自己の固有財産で弁済する義務を負います。また、被相続人の債務に保証人がいた場合、その保証人の責任は債務全額に及ぶままです。

特定の状況下での法定単純承認

  • 破産者による相続放棄: 破産手続開始後に破産者である相続人が相続放棄をしても、破産財団との関係では「限定承認」の効力を持つとされます。しかし、相続債務が相続財産を明らかに超えている(債務超過)場合は、破産管財人が破産裁判所の許可を得て、相続放棄の効力を認める申述を家庭裁判所に行うことができます。

  • 包括遺贈の受遺者: 遺言によって遺産の全部または一定割合を受け取る「包括遺贈」の受遺者は、相続人と同様に3か月の熟慮期間内に遺贈放棄の手続きをしなければ、法定単純承認と同様に遺贈を承認したとみなされます。

まとめ

法定単純承認は、相続人が意図しない形で被相続人の負債を無限に引き継いでしまうリスクを伴います。これを避けるためには、以下の点に特に注意し、慎重に対応することが不可欠です。

  • 相続開始後3か月という熟慮期間を常に意識し、期間内に相続財産の調査を完了させる。

  • 相続財産の調査が終わるまでは、安易に相続財産に手を付けたり、処分したりしない。

  • 遺産分割協議を行う場合は、負債の有無やその全容を十分に確認してから臨む。

少しでも不安や疑問がある場合は、速やかに弁護士や司法書士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが、後悔しない相続のために最も賢明な選択と言えるでしょう。